研究概要 |
アブラナ科作物の世界的害虫であるコナガの各種殺虫剤に対する抵抗性機構について解析を行った。 本年度はベンゾイルフェニル尿素(BPU)に対する抵抗性に関わっている可能性があるキチン合成酵素(CHS)遺伝子の解析を行った。BPUは昆虫成育制御剤(IGR)の一種で、昆虫のキチン合成を阻害する。BPUの作用機構としてUDP-N-アセチル-D-グルコサミンのキチン合成の場への輸送阻害が考えられてきたが、最近蚊においてBPUの一種であるジフルベンズロンはCHS遺伝子の転写に影響を及ぼすことが報告された。コナガでも同様の現象が起こっているかどうかを検証するために、CHS遺伝子のクローニングを試みた。既知の配列をもとに縮重プライマーを合成し、PCRを行いCHS遺伝子断片のクローニングを行った。さらに5'および3'RACEを行い、全塩基配列を決定した。得られたCHS遺伝子はCHS1タイプの遺伝子で、4,701塩基対のORFには179kDaのタンパク質がコードされていた。また、コナガのCHS遺伝子は、オルタナティブ・スプライシングにより、2種類のmRNAを産生していることが明らかとなった。BPUの一種であるクロルフルアズロンおよびジフルベンズロンをコナガに処理し、CHS遺伝子に及ぼす影響を調べたが、転写レベルに変化は認められなかった。以上の結果より、コナガにおけるBPUの作用機構は蚊とは異なっていることが示唆された。 殺虫剤散布後に害虫個体数が増加する現象は「リサージェンス」と呼ばれている。昨年度は、メチオニンリッチタイプの貯蔵タンパク質遺伝子がコナガのリサージェンスに関与している可能性を示唆した。本年度は2種類のアリルフォリンタイプの貯蔵タンパク質遺伝子のクローニングを行い、殺虫剤処理が遺伝子発現に及ぼす影響を調べた。その結果、これらの遺伝子の発現は殺虫剤処理による影響を受けず、リサージェンスには関連していないことが示唆された。
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