研究概要 |
受容的な話の聞き方とは,言い換えると「上手な」話の聴き方である.教育現場やビジネス上の人間関係などさまざまな人間関係において,相手の話を聴く技術をもたないことによって生じるさまざまなトラブルが表面化してきたことを背景として,近年,「上手な」話の聴き方の科学的検証が求められている.本研究は,対面対話における,身体動作,表情,周辺言語(「間」や発話速度など)のシンクロニーと,上手な聴き方との関連を調べ,受容的な話の聞き方の定量的モデル化を行うことを目的としている. 採用第1年度目に引き続き,受入研究者である認知心理学者の吉川左紀子先生,臨床心理学を専門とする桑原知子先生,ならびに社会心理学を専門とする渡部幹先生の協力を得て,心理臨床面接(カウンセリング)における話の聴き方を探究した. 昨年度(採用第2年度目)は特に,初回の模擬カウンセリング(50分間)5事例におけるカウンセラーとクライエントの音声および身体動作の物理計測を中心に行なった. (1)音声の分析では,各話者の発話長,ポーズ長,発話の交替にかかる時間の長さである反応潜時を計測し,発話の時間的構造を50分間に渡って時系列的に示す手法を提案した.この手法によって示される発話の時間的構造は,専門家によって評価されたカウンセリングの質によって大きく異なった.この相違は対話開始約25分を境に顕著になることから,この時刻にカウンセリングのフェーズの変化があることが推測された. (2)身体動作に関しては,映像処理により身体動作のシンクロニーを客観的に評価する手法を提案した.結果から,専門家によって高く評価された事例では身体動作の同調傾向が認められるのに対して,専門家による評価が低かった事例では観察されないことが示された.こうした相違がどの時刻(対話開始後の時刻)から生じるかなどについて,今後詳細に検討を進める予定である.
|