不斉合成のための金属触媒は、有機化合物を変換するための優れた機能性物質であるが、一方で高価であり、環境を汚染する-人体に影響がある-可能性がある。このため、非金属触媒の創製を基盤とする実用的不斉合成法の確立が急務とされている。 今年度はじめは、テキサス大学にて、キラルな分子とキラルレセプター間の分子間相互作用を調べるべく、センサーアレーを用いたパターンによる分子認識について研究を行った。すなわち、キラルな分子とキラルレセプター間での相互作用を調べる事で、プロキラルな基質とキラル相間移動触媒との相互作用を理解し、選択性発現の解明をすべく研究を行った。 分析対象となったD-およびL-アミノ酸をそれぞれセンサーアレーに加えると、D-、L-アミノ酸およびアミノ酸の種類によって、異なる指示薬の色パターンが生じた。つまり、異なるアミノ酸を見分けられただけでなく、エナンチオマーであるD-体およびL-体を、パターン認識によって区別することができることを示せた。このパターン認識によるエナンチオマーの区別は、哺乳類の舌が味を感じ取る機構と同じであり、これを再現できた事になる。 帰国後は、キラル相間移動触媒による不斉マイケル付加反応の研究を行った。これまでに、キラル相間移動触媒による高選択的不斉マイケル付加反応は、簡単ではなかった。また、基質を限定すると、アセチレンエステル類に対するα-シアノアセテートの不斉マイケル付加反応は、どのような触媒や条件でも難しいことが知られていた。しかし、触媒とプロキラルな基質との立体的な反発やキラル相間移動触媒の立体配座を精査し、アセチレンエステル類に対するα-シアノアセテートの高選択的不斉マイケル付加反応を可能とする相間移動触媒の開発に成功した。
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