ヒトES細胞の血管再生治療への臨床応用を目指し、まずヒトES細胞における血管前駆細胞の存在を検討した。未分化ヒトES細胞は、マウスES細胞とは異なり、全体にdullにVEGF-R2を発現していた。これらのVEGF-R2陽性細胞はすべて未分化ヒトES細胞マーカーの一つであるTRA-1は強陽性であった。当初ヒトES細胞をマウスES細胞と同様コラーゲンIVコートディッシュ上にて分化誘導を試みたが、マウスと異なりヒトES細胞はコラーゲンIVコートディッシュ上に生着しなかった。そこで、線維芽細胞系ストローマ細胞株OP9細胞との共培養系にて分化誘導を行うと、8日目にVEGF-R2陽性でかつTRA-1陰性である細胞群が出現した。この細胞群はVEGF受容体(VEGF-R1・VEGF-R2)およびPDGF受容体(PDGFRα・PDGFRβ)を発現していた。この細胞群をフローサイトメトリーにて分離し、VEGF存在下あるいはPDGF-BB存在下にて再培養したところ、VEカドヘリン陽性CD34陽性PECAM1陽性eNOS陽性の血管内皮細胞およびα平滑筋アクチン陽性カルポニン陽性の壁細胞が出現した。これらの結果から、ヒトES細胞由来VEGF-R2陽性TRA1陰性細胞はヒトの血管前駆細胞として働くことが示された。また、ES細胞由来のVEカドヘリン陽性血管内皮細胞はin vitroで増幅可能で、ヌードマウス皮膚潰瘍モデルの潰瘍下に移植すると、ホストの血管に取り込まれ、皮膚潰瘍の治癒を促進した。また、ヌードマウス下肢虚血モデルに経動脈的に移植すると、虚血下肢の血流回復が促進した。これらの動物実験の結果から、ヒトES細胞由来血管構成細胞は血管再生医療の有力な材料となりうることが示唆された。 また、ヒトES細胞、ヒトES細胞由来血管前駆細胞、ヒトES細胞由来血管内皮細胞、ヒトES細胞血管平滑筋細胞など、ヒトES細胞から血管構成細胞への分化各段階の細胞群のRNAを回収し、現在マイクロチップにて遺伝子プロファイリングを施行した。
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