AIDは、抗体のクラススイッチ(CSR)および体細胞突然変異(SHM)に必須の分子であり、AIDの制御あるいは機能異常が癌化を引き起こし得ることが明らかになっている。そこで、AIDがクラススイッチ組換えおよび体細胞突然変異に関わる詳細な分子機構とその制御機構の解明を目的とした。本年度は、以下の成果が得られた。 1.AIDの作用機序を明らかにするために、AID補助因子の同定を目的とした。昨年度の解析結果に基づき、これまでに同定したAIDと共沈する約20個のタンパク質の中から5個に絞って解析を進めた。まず、マウスBリンパ腫細胞株CH12F3-2においてノックダウンを行い、これら5個の候補タンパク質がCSRに関わっているかどうかを検討した。候補タンパク質のうちのいくつかは、ノックダウンによりCSRの効率が著しく低下した。さらに、ヒトバーキットリンパ腫細胞株BL2においてノックダウンを行い、SHMへの関与を検討したところ、SHMの効率が低下するもの、上昇するものが見出された。以上の結果は、これらの分子がCSRやSHMの調節を行う、AIDの補助因子であることを示唆している。 2.これまでに、AIDがc-myc/IgH染色体転座に必要であることがバーキットリンパ腫のモデルマウスを用いて示されていたが、c-myc/IgH転座自体はリンパ腫発症に必要ではあるが十分ではないことが知られている。本年度、Emu-cmycトランスジェニックマウスとAIDノックアウトマウスを交配することにより、AIDがc-myc/IgH転座を持った前リンパ腫細胞の腫瘍化に必要であることを明らかした。 3.AIDの発現は主に活性化B細胞に限局しているが、ヒト肝細胞、胃上皮細胞においてもC型肝炎ウイルス(HCV)、ヘリコバクターピロリ感染によってAIDの発現が誘導されること、さらに、HCV陽性ヒト肝癌組織、ヘリコバクターピロリ陽性の胃がん組織において、実際にAIDが発現していることを見出した。
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