私は、素粒子の現象を研究する上でもっとも重要な特徴の一つである、カイラル対称性について、コンピュータにおけるQCDのモンテカルロシミュレーションでの実現を目指して研究を行っている。平成16年度、私は格子ゲージ理論におけるカイラル対称性を改善するゲージ場の作用について、2次元量子電磁気学および、4次元量子色力学の2つの理論について数値計算を行った。2次元量子電磁気学については、2種類のクォークの量子効果を扱うフォーマリズムによる、より本来の理論を再現するアルゴリズムを採用した。このクォークの扱いについてもドメインウォール作用という、カイラル対称性を非常によく再現する作用を用いた。結果は期待以上のもので、クォークのカイラル凝縮や、中間子状態の質量について、とても高い精度で計算できることがわかり、しかもθ真空という、従来の手法では解析が不可能だったゲージ理論の幾何学的側面を解析する手法を考案することができた。私たちの研究が世界で初めてゲージ理論のθ真空を扱った格子シミュレーションを実現したことになる。実際の私たちの世界を記述するのは2次元理論ではなく、4次元量子色力学であるが、これについても、パイ中間子の崩壊定数をカイラル極限で有限体積で計算するという新しい手法を提案した。この手法は、あえて非現実的な、非常に小さな有限堆積の宇宙を考え、その中での量子色力学の低エネルギーのふるまいを記述するカイラル摂動論を考える。この理論と、有限体積の格子QCDシミュレーションを比較することで、カイラル凝縮や、崩壊定数をよりコストの低い数値計算で、信用の高い結果が得られるのである。この新しい手法でも成功を収め、高い精度の結果が得られた。
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