1.多層膜剥離に伴うベシクルの動的形態変化 脂質二分子膜で構成された小胞(ベシクル)は、細胞膜モデルの実験系としてよく利用されてきている。これまでに弾性体力学に基づく理論モデルから平衡状態におけるベシクルの形態に関する理論的・実験的な研究が数多く成されてきているが、生体内での細胞膜の融合・分裂などの現象は時間に依存した非平衡状態のもとで起きており、非平衡状態におけるベシクルの動的形態変化に関する研究は重要であるにもかかわらず、いまだ不明のまま残されていた。我々は水溶液中で安定に存在しているベシクルをガラス界面と相互作用させることで平衡状態から離し、新たな平衡状態への遷移過程の位相差顕微鏡観察を行った。多層膜ベシクルの最外膜がガラス表面との相互作用によって剥離し、内側の膜が飛び出してくる現象が観察された。また、膜剥離過程においてマイクロメートルの細胞スケールで動的形態変化の分岐現象がおきる事を見出し、理論モデルにより説明した。 2.非平衡開放条件下における油滴の自発的運動 油水系(水+油+界面活性剤)において、非平衡条件(非平衡な界面活性剤分子の分布)のもと前後の界面張力差を利用し油滴が水中で自発運動するメカニズムを解明した。また、境界条件を変化させることで、様々な運動のモードを取り出すことにも成功した。本研究では、等温系における化学エネルギーから運動エネルギーへのエネルギー直接変換の実験系を確立し、空間次元に依存した運動モードの選択をLangevin方程式に基づくシミュレーションによって説明した。
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