線虫C.elegansを用いて、寿命、老化制御の分子メカニズムに関して解析を行っている。今年度には、インスリン/IGF-1シグナル伝達経路の下流に位置する転写因子DAF-16によって発現を制御される遺伝子bml-1の作用機構について新たな知見が得られ、またレチノイン酸レセプターを介したシグナル伝達経路との関連を明らかにした。C.elegansにおいては、ベータカロチン摂食によって寿命延長およびbml-1の発現誘導がおこることが前年度の当研究によって明らかになっていたが、今回レチノイン酸によっても同様の効果が得られることを見い出した。この効果はベータカロチンよりも強力であり、またDAF-16を必要としなかった。従って、ベータカロチンはbml-1によってレチノイン酸に代謝され、寿命を延長している可能性が高い。またこのレチノイン酸による寿命延長はdaf-16のみならずhsf-1やsir-2.1、eat-2といった他の寿命制御因子とも独立して機能していることから、新たな寿命制御経路であると考えられる。さらに、RNAi法を用いたスクリーニングにより、この寿命延長に必要なレチノイン酸レセプターの同定に成功した。レチノイン酸は哺乳類の皮膚や神経の老化に作用することは知られているが、寿命に対する効果は分かっておらず、またC.elegansにおける機能も不明であった。これらの成果は、C.elegansをモデルとして、寿命制御におけるレチノイン酸の役割を明らかにする端緒となるものであると考える。成果は学術誌に投稿し、現在改訂中である。
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