研究概要 |
T細胞の抗原認識機構における副シグナルにおいて、現在まで様々な試みがなされてきたが、そのほとんどは、感染性病原体を一次処理する貪食細胞に対するT細胞におけるCD28/B7、CTLA4/B7、ICOS/ICOSLなどの作用機序であった。一方、PD-L1、PD-L2分子は免疫系貪食細胞だけでなく非免疫系上皮細胞などに主として発現が認められ、自己免疫疾患や腫瘍免疫において重要な役割を果たしていると考えられる。このように、従来の感染免疫とは異なる状況におけるT細胞の副シグナル経路の研究は系統的にはほとんど行われていない。 本年度は、ヒトにおける腫瘍免疫応答制御モデルとして、抗原提示細胞を主に上皮由来悪性腫瘍細胞に絞り、それらの腫瘍細胞とヒトγδT細胞との相互作用に関してPD-1/PD-L1/PD-L2システムの免疫学的意義を統括的に解析する予定だったが、これらの発現を調べた結果、ヒトγδT細胞においては、PD-1受容体ではなくICOS分子の発現が有意に認められたので、ICOS/ICOSLシステムを元にその生理的意義も確認した。 マウス及びヒトのPD-1,PD-L1,PD-L2分子の大腸菌における大量発現システムを確立した。具体的には、それぞれの分子の細胞外領域をコードする遺伝子を大腸菌用発現ベクターに組み込み、リボソーム結合部の最適化とコドンインデックスの最適化を行い、各分子を封入体として大量発現させる。次に、アルギニンベースの緩衝液中にてタンパク質の巻き戻しを行い、中圧カラムクロマトグラフィーで精製し、生理食塩水に置換後、フィルターろ過により滅菌した。 得られた組み換えタンパク質は、Biacoreシステムとフローサイトメーター法により試験管内で拮抗的に作用することが明らかとなり、以前、当研究室で明らかとなった抗PD-L1モノクローナル抗体投与によるマウスの腫瘍治療モデルに戻り、大腸菌由来タンパク質においても抗体と同様の効果があることを確認した。
|