メインテーマのうち、物理的知性について、2段階の演算である3項の引き算(例:2匹-1匹-1匹=残っていない)の能力を野生ベルベットモンキーで検討した。 行った実験は以下の2とおりである。実験1:引かれた数を、最後に目で確認できるもの(=2段階の演算の前段階)および、実験2:いったん引かれた後は、引かれた数を目で確認できないもの(=真の2段階の演算)。条件はいずれの実験においても、「2-0-0条件」、「2-1-0条件」、「2-0-1条件」、「2-1-1条件」、「2-2-0条件」、「2-0-2条件」、そしてベースラインである「0-0-0条件」の7条件であった。ベルベットモンキーが3項の引き算を行っているとすれば、ベースラインである「0-0-0条件」ではエサを取りに来ず、残数のある「2-0-0条件」、「2-1-0条件」、「2-0-1条件」ではエサを取りに来て、残数のない「2-1-1条件」、「2-2-0条件」、「2-0-2条件」ではエサを取りに来ないはずであるが、オス、メス各2頭ずつについて、3項の引き算の各7条件に対するエサ取りattempt行動の割合を算出し、ANOVA(Tukeyの多重比較)を行った結果、メス2個体の平均attempt率には条件間で差がなかった。また、オス2個体の平均でも、「0-0-0条件」と「2-0-0条件」間で有意な差があった以外は、他の条件間に統計的な有意差はなかったものの、attempt率の高い3条件は残数のある「2-0-0条件」、「2-1-0条件」、「2-0-1条件」であり、attempt率の低い4条件は残数のない「0-0-0条件」、「2-1-1条件」、「2-2-0条件」、「2-0-2条件」であることは興味深い。attempt率の差が有意にならなかったのは、本当にベルベットモンキーに3段階の演算能力がないからなのか、それとも他の要因(アクション数が多いため、など)によるものなのかを今後確認する必要がある。また、個体数が各性ともN=2と少なかったことも原因のひとつかもしれない。ベルベットモンキーの3段階の演算能力について真の結論を引き出すためには、今後より多くの個体を対象に実験を行う必要がある。
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