本研究はチンパンジーの視覚認識について検討し、ヒト化の過程における運動情報の知覚と認識の進化の特性を明らかにすることを目的とする。本年度は、昨年度に引き続き、チンパンジーによる運動する物体の視知覚に関するオペラント実験をおこなった。また、チンパンジーの注視を指標とした視覚認知実験の予備的検討をおこなった。 1.昨年度に引き続き、チンパンジーにおける因果的事象(衝突/通過)の視知覚特性を調べた。被験体の数を増やし、衝突/通過のどちらにも両義的に解釈しうる視覚刺激をヒトとチンパンジーでは異なった知覚的解釈をなすこと、また、"causal capture"と称される視覚的文脈の効果は両種で共通して見られるなどの結果がより明白に示された。 2.チンパンジーのオペラント実験において効率的な推定閾値の測定を実現するため、PEST (Parametric Estimation by Sequential Testing)の手続きによる適応的な測定法を検討した。コントラスト閾値を例に恒常法とPESTによる測定結果を比較し、チンパンジーにおいてもPESTによる測定が有効であることを示した。この結果を応用することにより、今後運動視に関する閾値測定実験を効率的におこなうことが可能になると考えられる。 3.チンパンジーの注視を指標とした視覚認知実験をおこなうための実験設備のセッティングをおこない、予備的検討をおこなった。チンパンジーでは、モニタ画面への興味が持続せず、安定したデータを取ることが困難であった。今後、モニタ前での座位に対して食物報酬を与えるなど、モニタへの注視を持続させるための訓練を計画している。
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