平成18年度は、前年度からの研究の延長でラーヴァターとムージルの<新しい人間>概念の研究にたずさわった。 ラーヴァター研究にかんする今年度の成果は、日本独文学会の研究叢書に収録した論文であるが、この仕事ののち、共著単行本にべつの論文を執筆するはなしがもちあがり、テーマを同じくしたまま発展的な研究をすることができた(同書は平成19年に刊行予定)。 ラーヴァターの<新しい人間>概念を研究するにあたっては、とくにシャルル・ボネの科学理論にかんする受容に着目した。ボネは、現在ではほとんど顧みられることのない人物だが、ラーヴァターの同時代にはきわめておおきな影響力をもった思想家であり科学者であった。ラーヴァターがボネの発生学的理論を、じしんの<新しい人間>の思想に組みこんでいることを、本研究の独自の着眼点として研究を進めた。 ムージル研究にかんしては、その成果は発表した一本の紀要論文のほか、現在(平成19年度初頭)最終段階に入った博士論文の執筆がある。 ムージルの<新しい人間>概念の研究をまとめるにあたって、数年をかけて進めてきたムージルのエルンスト・マッハ受容を中心の議論とした。具体的には、ムージルが<新しい人間>を問題にするときに、マッハの用語法や思考スタイルをどのように活用したかということを検討した。この方向の研究もこれまでの先行研究にはなかったポイントである。 以上のラーヴァター研究とムージル研究は、一文芸創作者が<新しい人間>を論じるにあたって、同時代の科学理論をどのように利用したかということに注目する点で連関している。
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