研究概要 |
本年度の研究では,まず,提案したニューラルネットワークモデルによって得られた語彙獲得曲線と実際の幼児の語彙データとの比較を行った.具体的には,幼児の語彙獲得曲線をよく回帰するロジスティック曲線によって提案モデルの語彙獲得曲線を回帰した.その結果,非常によく回帰できており,幼児の獲得と同様,モデルの語彙獲得曲線も急峻な獲得速度を示す時期を持つことが示された.新奇単語を獲得するまでに必要な提示回数の調査から,モデルが学習に伴って新奇単語を効率的に獲得していることが示された.また,文脈に対するモデルの内部表現を調べると,学習の初期では安定していなかった表現が,学習後期には安定していた.これらの結果から,提案モデルは,学習によって獲得した安定な文脈表現に基づいて新奇単語を適切なカテゴリを割り当てることで,新奇な単語を効率的に学習していることが示された. 次に,提案したモデルの統語規則の学習を重点的に解析した.提案モデルは,主語や目的語を関係節で修飾した複文に対しても適切な予測を行うよう学習を行うことができた.この結果はElman(1991,1993)の研究で提案されたモデルと比較して遜色がなかった.しかしながら,単文の学習において大きな違いが見られた.Elmanの提案したモデルが,提示する言語モデル内の規則(語順や他動性,主語・述語の数の一致など)をほぼ同時期に獲得しているのに対して,本研究で提案したモデルはほぼ一定の順序で段階的に獲得していた.岩立(1994)は,文とシーンのマッチングに対して幼児が利用する手がかりから,動詞の意味や語順,格など単文理解に4つの段階的な発達があることを示唆している.今後,モデルの規則の学習時期に影響を与える要因を検討することで,幼児の統語発達のメカニズムの推定を行う.
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