平衡状態における一分子の高分子鎖の構造はこれまで数多く議論されてきている一方で、平衡から遠く離れた所での高分子鎖の振舞いは、重要な問題であるにもかかわらずあまり議論されていない。最近の実験技術の進歩により一分子レベルでの速度過程が議論されるようになってきているが、それらの理論的理解は未開拓な問題である。そこで、本研究では、単一セミフレキシブル高分子鎖の折り畳み過程の速度論について現象論的な理論からの理解を試みた。 単一セミフレキシブル高分子鎖は、DNA等の生体高分子のモデルとしてその物理化学的性質が議論されてきている。その中で、興味深い物性の一つとして凝縮・脱凝縮転移が注目されている。この転移において、DNAは、良溶媒から貧溶媒環境への変化に伴い核形成・成長過程により折り畳まれ、一方再び良溶媒環境に戻すと今度は徐々にほどけていく過程が見られることが実験的に明らかになっている。 本研究の特徴は、物理学的重要性にとどまらず、セミフレキシブル高分子がDNAのモデルとなっていることからも明らかなように、生物学的な意義も兼ね備えていることであり、また実験、理論、シミュレーションの比較が可能であることも重要な点の一つである。 本研究では、自由エネルギー変化と散逸のバランスからマクロな変数に対する運動方程式を求め、その時間発展を議論した。その結果、凝縮過程においては等速の速度過程が、また脱凝縮過程においては初期の速い過程の後に次のような動的スケーリング指数を持つ過程が得られた。これらは、定性的には実験結果とよく合っており、今後の課題として定量的な比較を検討しているところである。
|