研究概要 |
本研究の目的は,分子気体力学によりさまざまな流れの安定性を解明することにある.流れの安定性の研究は,流体力学の主要なテーマのひとつであり,古典流体力学による研究は古くからさかんに行われている.しかし,分子気体力学による安定性の研究はごく最近はじめられたばかりである.分子気体力学は,常圧気流だけではなく,近年その重要性が叫ばれている低圧気流やマイクロスケール気流をとりあつかうことができる. 平成16年度は,流れの安定性の問題のなかでも,もっとも基本的かつ重要な問題のひとつであるテイラー・クエット問題の研究を行った.テイラー・クエット問題とは,回転する同軸二重円筒間の流体の流れの安定性の問題である:軸対称・軸方向一様の制限下では,内外円筒の回転速度に関らず常に軸方向一様な流れ場(クエット流)が得られるが,軸方向一様の制限を外すと,パラメータによってはクエット流が不安定となり,動径方向と軸方向で張られる平面内に渦(テイラー渦)ができることがある. 上記の問題を2種類のアプローチによって詳細に調べた.まず,直接シミュレーション・モンテカルロ法と呼ばれる手法により数値解析を行った.その結果,クエット流が不安定となるパラメータ領域で,2種類の異なる形のTaylor渦の解が共存するパラメータ領域があることなどを明らかにした.次に線形安定解析を行った.分子気体力学では,その基礎方程式(ボルツマン方程式)が複雑であるために,これまで線形安定解析は行われてこなかったが,精密な数値解析と組み合わせることによりこれを実行することに成功した.その結果,クエット流が不安定となる臨界パラメータをより正確に求めることができ,また既存の古典流体力学による結果と比較することにより,気体が希薄度を有するときの影響を明らかにした.
|