研究概要 |
本研究の目的は,分子気体力学によりさまざまな流れの安定性を解明することにある.流れの安定性の研究は,広く一般の流体力学において重要なテーマであり,古典流体力学による研究は古くからさかんに行われている.しかし,分子気体力学によって扱われる,低圧下,マイクロスケール,および相変化を伴う流れの安定性の研究の歴史は浅い. 平成17年度は,同軸2重円筒間の蒸気・非凝縮性気体の混合気体の流れについて研究を行った.より詳しくは,回転する同軸2重円筒間に,円筒を構成する物質と同種の気体(蒸気)と,それとは別の気体(非凝縮性気体)の混合気体が含まれている場合を考える.蒸気は円筒上で蒸発・または凝縮をおこすが,非凝縮性気体はおこさない,本研究では,分子気体力学(Boltzmann方程式)に基づき特に流体力学体極限(Kn=平均自由行程/代表長→0の極限)に注目して研究を行った. 本研究では2種類のアプローチによって,上記の問題を詳細に調べた.まず,直接シミュレーション・モンテカルロ法と呼ばれる手法により数値解析を行った.その結果,連続体極限に近づくにつれ,蒸発・凝縮は止まる傾向を示すにもかかわらず,その流れ場は蒸発・凝縮を伴わない場合の流れ場とは別のものに近づくことがわかった.さらに,あるパラメータ範囲で,流れの分岐が起こることも明らかにした.次に,Knを小さいパラメータとして,Boltzmann方程式の漸近解析を行い,連続体極限の流れ場を記述する流体力学的な方程式を導出した.その結果,連続体極限では無限小である蒸発・凝縮が,流れ場に大きな影響を及ぼすことがわかった(幽霊効果の一例).また,流体力学的方程式には解の分岐が起こることを明らかにした.
|