RhoファミリーG蛋白質は細胞骨格の重要な調節分子であり、様々な軸索ガイダンス分子の機能発現に深く関わっている。私はRhoファミリーG蛋白質の中で、脳・神経系に特異的に発現しているRnd1の神経機能を明らかにするため、Rnd1に結合する分子を、酵母のtwo-hybrid法を用いてスクリーニングし、ガイダンス因子受容体、Plexin-B1の細胞内領域に結合することを見いだした。Plexin-B1の細胞内領域で、Rnd1の結合部位は、C1とC2とに挟まれた領域にある。私はPlexin-B1の細胞内領域の配列を詳細に検討し、Plexin-B1の細胞内領域がGAP様配列をコードしており、実際に低分子量G蛋白質R-Rasに対するGAPとして機能することを証明した。R-Rasは細胞接着分子受容体、インテグリンを活性化することが知られている分子であることから、Plexin-B1がR-RasGAP機能を発現することで神経突起の基質への接着を弱めることで反発性ガイダンス分子として働くことが示唆された。Plexin-B1によるR-RasGAP機能の発現にはRnd1がC1とC2の間に結合することが必須であり、さらに、リガンド(Sema4D)によるPlexin-B1のクラスター化が起こることで、リガンド依存的な反応を示した。さらに、内在性のRnd1をノックダウンした神経細胞ではSema4Dによる成長円錐退縮応答が阻害された。以上のように、私はPlexin-B1-Rnd1複合体によるR-RasGAP活性の発現がSema4D-Plexin-B1による反発作用に必要であることを明らかにした。 R-Rasの細胞機能とその分子機構に関してはあまりわかっていないが、インテグリンによる細胞膜伸展や細胞の前進などに重要な役割を果たしていることが間違いない。軸索の反発作用に加え、神経細胞の移動の制御もR-RasGAP活性を介して行うことが予想され、現在さらなる検討を進めている。
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