研究概要 |
平成16年度は,研究課題「農業の知的所有権と研究開発投資の生産性に関する分析」での採用1年目であることから,おもに文献サーベイを中心に研究を進めた.現段階において,国内における農業分野での研究蓄積はまだあまり進んでいないことから,海外の文献を中心におこなった.具体的には,Keith O.Fuglie and David E.Schimmelpfenning編「Public-Private Collaboration In Agricultural Research-New Institutional Arrangements And Economic Implications-」の本を中心に,著作の吟味・検討をおこなった. その上で,現時点での課題を要約すれば,知的所有権を議論する上で,第1に重要となるのが研究開発(R&D)の成果である技術知識のスピルオーバーである.そこで,スピルオーバーの概念を整理し,その把握を試みた.具体的には,わが国の小麦品種改良を事例とし,遺伝資源共有度という指標を畜産分野における近縁係数を援用しながら,遺伝資源共有度として求める.その上で,スピルオーバーの把握,およびその有用性を示した. 小麦は,自給率全体の向上という点からも重要な作物のひとつであり,特に近年,品種改良などの研究開発が強力に推し進められている.しかし,品質という点からみれば,輸入小麦との格差は,依然として解消されていない. こうした現状を踏まえ,スピルオーバーと研究開発制度の関連について考察をおこなった.結果は,遺伝資源共有可能性の比較的高い試験地では,より効率的な研究開発をおこなうためには,特に近隣試験地を中心に情報共有を進めることが有用であることを明らかにした.その一方で,共有度の低い試験地においては,研究資源が比較的制限されていることから,民間研究機関との連携なども模索することが必要である,と結論付けた.
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