ハクジラ亜目6種(マゴンドウ、ハナゴンドウ、バンドウイルカ、スジイルカ、マダライルカ、ツチクジラ)の肝臓と肺の在住マクロファージの形態学的解析を行い、以下の成果を得た。 1.肝臓 Kupffer細胞は豊富な胞体を示し、特徴的な黒色顆粒を多量に含んでいた。顆粒はライソゾーム内に存在し、微細構造および特殊染色からリポフスチンであると考えられた。また顆粒を含むKupffer細胞の分布は小葉中心帯に偏り、同部位の肝細胞内にもリポフスチンが多く見られたことから、肝細胞からexocytosisにより排出されたリポフスチンをKupffer細胞が盛んに貪食していると考えられた。 不要物の貪食作用だけでなく、Kupffer細胞は肝星細胞のデスミンとα-平滑筋アクチン(α-SMA)蛋白の発現および血管周囲細胞としての機能発現に関わっている可能性が挙げられた。鯨類の肝臓では小葉中心性の類洞拡張が顕著であり、その周囲のDisse腔では肝星細胞のデスミンおよびα-SMA蛋白の発現が著しく観察された。そして、それらの肝星細胞と抗マクロファージ抗体・SRA-E5陽性Kupffer細胞との間に相関関係が認められている。 2.肺 ハクジラ亜目6種の肺で肺血管内マクロファージ(PIM)の存在をSRA-E5を用いた免疫染色および電顕観察で確定した。PIMは限られた動物種にのみ存在する肺在住マクロファージであり、鯨類での発見は初である。細胞質には活発なendocytosisが観察され、PIMはKupffer細胞と同様に血液の清掃を行っていると思われた。また、PIMはグラム陰性細菌のLPSを結合することで急性肺障害を誘導することが報告されている。感染症による肺疾患は小型鯨類の主な死因であるにも関わらず、鯨類の肺の病態生理は不明であり、PIMの発見はこの分野の研究の進展を促すと考えられた。
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