今年度は予定通り、研究誤題の考察に必要な基礎的作業(データベース構築)を重点的に行つた。研究対象のコーパスを改めて設定しなおした上で、対象テクスト(16世紀初頭に印刷されたソチ諸作品)のオリジナル(印刷本あるいはそれに近いファクシミレ版)から直接テクストを転写・電子化し、詩作技巧の再定義をおこなった。地味な作業ではあるが、20世紀に作られたソチ校訂本の本格的再検討につながるものであり、すでに多くの先行校訂本の問題点が確認されている。また、この作業と平行して深められた研究課題に関する考察としては、1)ソチ諸作品の諷刺内容とテクストの保存形態(写本乃至印刷本)の間には関連性が見いだせうること、2)ソチ諸作品では、詩作技巧や登場人物が言説の階層化を行うために極めて有効に用いられていること、3)ソチのジャンル名と登場人物の名前、および詩作技巧の存在との間には、15世紀・16世紀の詩学に裏打ちされた必然的な関係が見られうること、などがあり、以上の主要3考察はそれぞれすでに論文としてまとめられている。目下の課題は、個々の作品の保存形態や、保存目的といったテクスト伝承の問題と、作品の諷刺的側面といったテクストの内容の問題、そして詩作技巧というテクストの修辞的・技術的問題の三点を有機的に結びつけることである。この主題に関しては複数の中世演劇研究者との意見交換を行っており、近く論文として成果を発表する予定である。
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