研究概要 |
これまで,数多くの先行研究で,社会不安障害の予防の必要性が指摘されてきた.社会不安障害のリスクファクターとなりうることが指摘される要因に,行動抑制(behavioral inhibition : BI)と,拒否的・過保護な親の養育態度がある.こうした要因は,社会化体験の少なさに起因する社会的スキルの未獲得という共通のメカニズムによって社会不安障害を引き起こすと考えられている.そこで,本研究では,社会不安障害の発症に至る経路をモデル化し,当該モデルがどの程度の説明力を持つかを検討することを目的とした. 対象者は都市部近郊の大学生489名(以下「学生群」とする)および社会不安障害の診断を受けた患者35名(以下臨床群」とする)であった.臨床群と学生群で因子の測定状況が等しいことを仮定した上で,共分散構造分析による多母集団の同時解析を行った.モデルの適合度はGFI=.813,AGFI=.800,RMSEA=.055と良好であった.パス係数の推定値より,BIは児童期の社会的スキルを強く阻害することが示された.また,親の過保護な養育態度は,特に臨床群において引っ込み思案行動を促進していた.児童期の社会的スキルの未獲得は,成人期の社会的スキルの欠損を予測するものであった.さらに,社会的スキルの欠損は社会不安障害の行動的症状を強く規定していた.想定された一連の経路の影響性は,臨床群において顕著であった.以上のことから,BIやネガティブな親の養育態度といった不利な条件を持って生まれた子に対しても,後天的に社会的スキル訓練のような介入を行うことにより,社会不安障害の症状の発現を予防できる可能性が示された.
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