研究概要 |
若年期発症の社会不安障害(Social Anxiety Disorder : SAD)は予後が悪く,成人期の機能障害の原因となるだけでなく,就学上・対人関係上の困難をもたらすものであることから,早期介入・予防の必要性が指摘されている。しかし,本邦においては児童青年期のSADに関する知見が十分に蓄積されておらず,こうした児童生徒がどのような特徴を有し,どのような援助を必要とするのかが明らかにされていない。そこで,本研究では日本における児童青年期のSADの特徴を調べることを目的とした。 対象者は首都圏の公立学校に通う小学5年生592名(男子305名,女子287名)および中学2年生467名(男子230名,女子236名,無記入1名)であった。調査材料はSocial Phobia and Anxiety Inventory for Children (SPAI-C)邦訳版および独自に作成したシナリオ呈示課題を用いた。調査は地方自治体主催の健康推進プロジェクトの一環として行われ,学級担任の監督の下,クラス単位で実施された。 項目反応理論を用いた検討の結果,小学生では社会不安を感じる場面とそうでない場面の弁別が不明瞭であるため,幅広い社会的状況において不安が見られる一方で,中学生では発達に応じて不安が強まっていく群と,減弱していく群との二極化が進むことが示された。全体的な社会不安のレベルは小学生よりも中学生で強く,いずれの学年においても,男子よりも女子の社会不安が高かった。また,シナリオ呈示課題では,社会不安の高い児童は,低い児童と比べて,社会的な場面における刺激をネガティブに解釈する傾向にあり,ポジティブな考えの生起率が低いという結果が得られた。さらに,社会不安の高い子どもは呈示された場面の脅威度にかかわらず,そうした場面への対処可能性を低く評価し,回避的な対処を多く取ることが示された。
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