妊娠認識機構の解明を進める上で、受精卵と直接接する母胎側の子宮内膜上皮細胞機能を解析することは非常に重要である。しかし、国内でのBSE発生以降、ウシの全頭検査の実施により検査終了後まで、採材した子宮を含めた生殖器官を食肉処理場から搬出することができなくなり、子宮内膜上皮細胞を新鮮な状態で入手するのが困難となったため、研究進捗が危惧されている。私は、胚移植を行う時のドナー牛から胚を回収する際の子宮灌流液中に含まれる子宮内膜上皮細胞に着目した。そして、子宮灌流液中のウシ子宮内膜上皮細胞が形態的にも機能的にも、これまで報告されている研究結果と同様の研究結果が得られた。これにより今回の方法で採取したウシ子宮内膜上皮細胞を用いて、BSE発生以前と同様に研究を行うことが可能となった。今回の試験:結果は、日本胚移植研究会で既に発表し、国内学会誌への投稿を予定している。 近年、遺伝子発現制御技術としてRNA干渉(RNAi)が注目を浴びている。RNAiは簡便で高い効果が得られるので、特定遺伝子機能の解析や遺伝子治療を目的とした基礎研究など医学分野で利用が進んでいる。しかし、家畜繁殖分野でのRNAiを利用した遺伝子発現制御の研究はほとんど行われていない。今回、ウシ卵丘細胞を試験材料に用いて、生殖現象の中心的な調節因子であるプロスタグランジンを合成する酵素の1つであるシクロオキシゲナーゼ(Cox-2)遺伝子を標的として試験を行った。本試験は、遺伝子発現を抑制するために細胞に導入する二本鎖RNA(siRNA)の濃度およびsiRNAの導入時間を検討した。その結果、Cox-2遺伝子を特異的に抑制することに成功した。したがって、本試験により家畜の生殖器官の細胞において、RNAiを用いた遺伝子発現制御が可能であることが示された。今回の試験結果は、日本畜産学会で既に発表し、国際学会誌への投稿を予定している。
|