本年度は、現在ロシアの土地、住宅制度に着目し、その制度のソ連時代の遺産と市場移行による変化、進化についての実証分析を行った。 ロシア、モスクワ大学にての長期在外研究を平成17年6月30日に終了し、収集資料の整理、分析を深める過程でさらに在外調査を行う必要が生じたため、平成18年1月26日から同年2月13日までロシア、モスクワ市およびモスクワ州において聞き取り調査、研究者交流、情報収集、資料収集を行った。以上の調査および研究の中間報告を、学会誌への発表および「労働市場研究会」での研究報告に結実させた。 ここ3年でモスクワでは建設ブームによる住宅価格高騰と、公共料金の急激な引上げが発生している。この背景には、「市場経済化進展による中間所得者層の発生」と、「固定資産税の導入による土地市場の流動化促進」という研究者の推測があった。研究の結果、中間所得者層は全体のほぼ半分を占めるほどであること、また住宅価格急騰の原因が単純な住宅需要によるものだけではなく、投機需要が影響していることが分かった。一方で、住宅公共セクター(ЖКХ)の改革の遅れがこの分野で重要な課題となっている。支払力のない弱者層による抗議運動も散発し、公共料金の回収率を低水準にとどめ、設備更新の遅れは依然として改善されていない。他方、固定資産税については、保有コストを高めるほどの負担税率が課されていないこと、さらに都市部の土地の所有のほぼ9割が自治体所有のままであるため、固定資産税導入による土地の流動化という論理がロシアにおいては意味を成さないという結論が導出された。 企業、住民は土地ではなく住宅、建物の所有権を所有し、その売買が行われているが、所有権について不慣れであるため、資産保護、資産評価の未発達が、ロシアの資本市場および金融市場の未成熟さに影響しているという知見が聞き取り調査などの結果によって得られた。
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