研究概要 |
本年度は,イネの葉の極性分化・生長を解明するために,いくつかの鍵となる遺伝子群に着目し,以下のようなタンパク質機能の保存性およびイネにおける機能解析を行った. PHABULOSA(PHB)様HD-ZIPIII遺伝子 イネのPHB様遺伝子を単離し,イネで構成的に発現させた植物体を作成したところ,葉身組織の向背軸に関する極性異常,葉鞘背軸側に異所的な向軸側組織の発生,などの表現型を示した,したがって,イネにおいてもPHB様遺伝子は葉の表側組織の決定を制御している事が示された.また,その表現型や,野生型におけるPHB様遺伝子の発現パターンから,イネPHB様遺伝子は,葉の表側を一様に決定するというよりは,葉の表側の一部の組織決定に特に重要な機能を持つ事,そして,葉の向軸側と背軸側の境界部において,葉の横方向への生長が促進される事が示唆された.また,PHB様遺伝子の発現制御に関与しているmiRNA(miR166)の活性部位を解析し,イネPHB様遺伝子の発現は,miR166の相補的な活性により制御されている事が明らかになった. ROTUNDIFOLIA4(ROT4)様遺伝子 イネのROT4様遺伝子を単離し,まずシロイヌナズナで構成的に発現させた所,シロイヌナズナのROT4遺伝子の構成的発現体と同様に,葉の縦方向への細胞増殖が抑制され,短い葉を持つ植物体が得られた.したがって,イネのROT4様遺伝子は,タンパク質レベルでその機能がシロイヌナズナのROT4と保存されている事が明らかになった.次に,イネにおけるROT4様遺伝子の構成的発現体を作成した所,葉がわずかに短くなったが,その表現型は非常に弱かった.イネの葉は,縦方向への細胞供給により,葉の形態形成の大部分が制御されているが,その細胞増殖機構はシロイヌナズナと比較して,ある程度多様化している事が示唆された. KANADI(KAN)様遺伝子 イネのKAN様遺伝子を単離し,イネにおける構成的発現体を作成したが,シュート形成に異常を示し,再分化個体が得られなかった.そこで現在葉で特異的にKAN様遺伝子を構成的に発現する形質転換体を作成している.
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