脊椎動物の体幹部での頭尾軸に沿った領域の特異化は、原条など最尾部に位置する未分化細胞集団から異なるHox遺伝子群を発現する細胞が逐次的に分化し、頭部側から順序よく配列されるという独特の形式をとる。ここでHox遺伝子群の発現がどのようにして調節されるのかは重要な問題であるが、発生様式の特殊性もあり未だ不明な点が多い。我々は、マウスES細胞を用いたジーントラップ法により、Wnt-3aにより発現が抑制される新規遺伝子(Clone50)を同定し、Clone50遺伝子欠損マウスがWnt-3a変異体マウスと同様のホメオティック変異を示し、Clone50がWnt-3aによる領域特異化に関与する可能性を考えた。興味深いことに、Clone50は典型的なクロマチンリモデリング因子の構造と共に、βカテニン結台性Wntシグナル抑制因子duplinと高い相同性を示す構造を有しており、Wntシグナルの伝達因子としてクロマチン構造の制御に関わることが考えられた。本研究では、Clone50のWntシグナル伝達に対して果たす役割を明らかにするとともに、椎骨部域化におけるWntシグナリングとクロマチンリモデリングとの関連性について明らかにすることを目的にし、その機能を分子・細胞・個体レベルで解析している。 今年度は、Clone50の分子・細胞レベルでの機能解析を行うことを目的とし、Wntシグナルに与える影響についての検討を行った。まずClone50タンパクの発現を試み、免疫沈降法により本因子がβカテニンと結合することを明らかにした。次にClone50をβカテニンと共に発現させたところ、βカテニンの持つWntシグナル活性化能を抑制することを明らかにした。以上から、Clone50はβカテニンと結合し、Wntシグナルを負に調節する新規クロマチンリモデリング因子であると考えられた。
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