本研究においては、"エゴノネコアシアブラムシによる植物形態のホメオティック転換"という現象を突破口にして、表現型レベルおよび遺伝子レベルからの相補的なアプローチにより、ゴール形成のメカニズムを明らかにすることを目的として取り組んでいる。Kurosu & Aoki(1990)によって、エゴノネコアシアブラムシのゴール形成過程が記載され、ゴール形成途中で虫が死亡した場合にそこから花が形成されること(季節外れに花が咲くことから"遅れ花"と呼ぶ)、そのような花はしばしば八重咲きになることが観察されている。そこで、野外のエゴノキの正常な葉芽、花芽、形成過程のゴール、および遅れ花を生じつっあるゴールについて、その発生過程を形態学的に詳細に観察、記載してステージングをおこなうとともに、組織切片の作成によって、組織学的な分化過程の詳細についても記載を行っている。また、有機リン系、合成ピレスロイド系など、作用機構の異なる速効性殺虫剤によりゴール形成過程の芽を処理して、ゴール形成途中でアブラムシを殺し、どのような遅れ花が誘導されるかを調査するため、初年度は、アブラムシを確実に殺し、なおかつ周辺の腋芽に影響を及ぼさない薬剤の濃度を決定した。さらに、野外で様々な遅れ花を採集し、その形態変異について解析を進めるとともに、エゴノキのツボミからRNAを抽出し、花芽分化や花器官形成に関与しているMADS-box遺伝子の網羅的なクローニングを行っているところである。
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