ゴールは昆虫や微生物などにより植物体上に形成される構造であり、生きた植物細胞から形成されている。とりわけ昆虫により様々な植物に形成されるゴールには高度な形態誘導が働いている。ゴール形成昆虫にとっては、ゴールは生存に必須な構造であり、その形状は、形成者特異的であるため、ゴールの形状から形成者の同定が可能である。また、植物の通常の発生過程では決して誘導されないため、ゴールは、植物と植食者の相互作用が具現化したものと見なす事ができる。昆虫によるゴール形成のメカニズムについては、非常に興味深いにも関わらず、ほとんど研究がなされていない。本研究においては、"エゴノネコアシアブラムシによる植物形態のホメオティック転換"という現象を突破口にして、表現型レベルおよび遺伝子レベルからの相補的なアプローチにより、ゴール形成のメカニズムを明らかにすることを目的として取り組んでいる。エゴノキ-エゴノネコアシアブラムシの系では、ゴール形成途中で虫が死亡した場合に、そこから花(「遅れ花」)が誘導されること、その花はしばしば八重咲きになることが知られている。そこで、野外でのゴール形成過程を詳細に観察・記載するとともに、組織切片の作成によって、組織学的な分化過程の詳細についても記載した。さらに、薬剤処理により、幹母を様々な段階で排除し、その後誘導される構造を観察した。その結果、遅れ花は、幹母定着後1〜4日目にかけて高頻度で誘導されるが、8日目以降になると、主にサブゴール原基が誘導される事が明らかになった。従って、野外調査から、ゴール形成の過程において、極初期の定着1〜4日目に花芽分化に関与する遺伝子群の発現が誘導されていることが示唆された。現在、エゴノキのツボミからRNAを抽出し、花芽分化や花器官形成に関与しているMADS-box遺伝子の網羅的なクローニングを行っているところである。
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