本研究では観測時間が短く高い分解能を有した高性能の光和周波発生(SFG)顕微鏡を開発し、生物学や表面科学などのあらゆる学問領域で有用であることを示すことを目的としている。本年度は超高真空下の固体表面の表面電子準位像が得られるSH顕微鏡と、表面分子振動像が高感度で得られるSF顕微鏡を開発し、またその応用としてパルス光照射した水素終端si(111)1×1面の観察を行った。その結果、SH顕微鏡によってH-Si(111)1×1表面上の水素脱離分布に対応したSH顕微像を得ることができた。これはSi表面の水素脱離分布が数オm程度の中間領域の顕微像として非破壊で得られた最初の報告例である。また、H-Si(111)面のSi-H伸縮振動に対応したSF顕微像が得られた。まず、モノハイドライド(2080cm^<-1>)の伸縮振動に対応したSF顕微像では、パルス光照射した領域において水素脱離が起きたためSF光が減少した。また、入射赤外光の波数を2092cm^<-1>にするとパルス光照射した領域だけから新たにSF光が発生していることが分かり、さらに、このSFスペクトルは2092cm^<-1>を中心としたブロードなピークとなっており、パルス光照射によって新たにダイハイドライドが生成したことを発見した。超高真空下で固体表面のSF像、分子振動像が得られたことは初めてであるが、特に水素の被覆率が1ML以下であるSi表面でダイハイドライドが顕微像として検出できる高感度の振動分光顕微鏡はSF顕微鏡以外には存在しない。このようにSF顕微鏡は高いポテンシャルを持っている表面観察手法であることが示された。なお、このダイハイドライドの生成はSi表面の構造変化と水素脱離反応が関わって生成した。レーザーアニールによるSi基板の構造変化と水素脱離反応はそれぞれ別々に研究されてきたが、それらが関わりを持つということは新しい発見である。
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