1990年代後半に、超弦理論の摂動論によらない構成的定義の候補として、一連の行列模型が提唱されてきた。私はこれまで、行列模型からどのようにして私たちの住む時空の次元や物質間の相互作用を特徴付けるゲージ群が生成されるかについて研究してきた。今年度は昨年度に引き続き、以下の2つの方向性から研究を進めた。 現在進行中の研究としては、次の二つの方向性がある。一つは、行列模型におけるゲージ群の生成である。これまでには固有値がk個ずつクラスタリングする場合にU(k)ゲージ群が生成される、というアイディアがあった。私たちは、このような幾何学的な見方に代る、より実用的な方法として、SU(N)対称性の自発的破れを見ることにより、力学的に生成しているゲージ群を特定する新しい方法を提案した。これについては、現在解析を継続しており、後に論文に纏める予定である。 もう一つは、時空の回転対称性の自発的な破れの仕組みに関してである。超弦理論を表す行列模型では、10次元の回転対称性が自発的に破れて、4次元時空を生成することが期待されている。その際には、行列模型のフェルミオンを積分することで出てくる行列式の複素成分が本質的な役割を果たすことが知られている。一方、こうした行列模型の数値シミュレーションは、いわゆる「符号問題」のために非常に困難である。そこで、私たちは簡単化した行列模型について"factorization method"と呼ばれる手法を用いて数値計算を行なってきた。これについては、2006年度基礎物理学研究所の研究会において、ポスター発表を行った。
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