本研究は、未だ充分に高度利用されていない淡水魚を対象に、様々な飼育条件下における筋肉タンパク質の性状変化を分子レベルで調べた上で、魚肉加工品素材としての機能性を明らかにし、高度利用の基礎とすることを目的とした。 始めに、種々の成長段階および異なる温度で飼育したハクレンを対象にミオシン重鎖遺伝子(MYH)の発現変動を調べた。ハクレン成魚(体重4.9kg、採取時水温23.4℃)の普通筋および血合筋、10℃、18℃および26℃に馴化したハクレン幼魚(体重10-20g)の普通筋から調製したfirst strand cDNAを鋳型に、3'末端の翻訳領域および非翻訳領域を含む約450bpの領域をPCR増幅し、5種類のMYHを得た。分子系統解析の結果、5種類のMYH中、1つは胚体型、4つは成体速筋型と判断され、胚体型MYHは既報のソウギョ成体速筋10℃型MYHと最も高い相同性を示した。また、4つの成体速筋型MYH中、2つはソウギョ中間温度および30℃型と最も高い相同性を示し、残る2つは既報のrock codの遅筋で主に発現するA4型MYHと高い相同性を示した。 分子系統解析から判断する限り、ソウギョおよびハクレンでは既報のコイ速筋10℃型よりむしろ胚体型MYHに類似した。この結果は、2倍体のソウギョおよびハクレンは同じコイ科でも4倍体のコイとは馴化機構がやや異なることを示唆するもので、魚類MYHの進化を考える上で興味深い。既報のように、冬季ソウギョのミオシンは高い加熱ゲル形成能を示す。また、シログチおよびスケトウダラの普通筋ミオシンも高いゲル形成能を示す上、これらMYHも胚体型に属することから、魚類胚体型MYHは加熱ゲル形成に重要なアミノ酸置換が起こっている可能性が示唆された。
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