平成17年度において、金沢市立玉川図書館近世史料館、狩野文庫(東北大学附属図書館)、肥前島原松平文庫(島原市図書館)の所蔵になる書道伝書の調査閲覧を行い、写真版又は紙焼の作成を行った。近世史料館所蔵の資料の中に『増補版国書総目録』にも未掲載の松花堂流の伝書が三点含まれることが確認され、これらの資料は、加賀藩における松花堂流受容の様相を伝えるものであり、武家社会と松花堂流の受容を考える上で、貴重な資料の発見となった。現在、これらの伝書を以前に調査収集した松花堂流の伝書群の中で位置づけるための作業を行っている。狩野文庫所蔵の書道伝書群の調査では、新たに松花堂流の伝書と認められる資料が一点見出された。本資料は松花堂流伝書の流布を考える上での新たな視点を提示するものである。また、狩野文庫および肥前島原松平文庫には多数の書道伝書が含まれるが、松平文庫の場合、島原藩主・松平忠房の旧蔵からなるもので、忠房の書道に関する教養だけでなく、島原藩における右筆の教養を窺う上で有効な資料といえる。これらの資料群によって、近世文字社会における書道伝書の果たす役割の大きさが改めて確認される。これまでに多数の書道伝書を調査する機会を得た。現在、それらの資料群を対象として分類整理を進めているが、従来、書道伝書が研究対象とされることはほとんどなかったこともあり、書道伝書の分類整理には今後も時間を要すると思われる。本研究における書道伝書および書跡(作品)調査の結果は、その一部を「東京国立博物館蔵・藤田乗因筆『六六武将賛』について」(『MUSEUM』第599号)としてまとめた。本論文は「六六武将賛」という松花堂流書家の手になる代表的な作品を題材として、松花堂流において伝承された書風および書体の「書き分け」のあり方を論じたものであり、書跡を対象とした研究において、新たな研究手法を提示するものとなった。
|