1 タンパク質等の複雑な系における多次元エネルギー地形の可視化方法として広く用いられているdisconnectivity graphのトポロジカルな情報(エネルギー地形上の固定点間の繋がり)に加えて測度的な情報(固定点の分布の次元性等)を埋め込んだ新たな手法を提案し、タンパク質粗視化モデル(BLNモデル)、およびファネル型により近いエネルギー地形を有する派生モデル(Go-likeモデル)に対して適用した。その結果、BLNモデルに比べて、Go-likeモデルでは特に天然構造付近において、より少ない自由度でエネルギー地形のトポロジーを再現可能であり、摂動に対してより頑健であることが示唆された。 2 上記両モデルに対して分子動力学シミュレーションを行い、各自由度に分解したポテンシャルエネルギー時系列に対して、定常性の指標を与えるアラン分散等による解析を行った。その結果、一部の二面角項および非共有結合項に係わる自由度において非定常性が現れること、それらの協同的集団運動によって非定常性がより顕著になることが見出され、非定常性を生み出すタンパク質多次元ダイナミックスを解明するためのより良い集団座標を選ぶ指針を得た。 3 タンパク質ダイナミックスの集団運動を捉えるために用いられている主成分解析において、時折観測される周期的な振る舞いの起源を判別するためにカオス力学系における新しい概念である有限サイズリヤプノフ解析および(ε・τ)エントロピーを用いた判別方法の可能性を考察した。 4 高次元カオス力学系である多くの化学反応系において、鞍点領域に頑健に存在する法双曲的不変多様体の概念に基づいて、化学反応の成立条件を調べた。具体的には、HCNの異性化反応に対して基準座標近似が破綻する領域で、相空間上の分離された標準形座標に対応する分子の運動を可視化し、ポテンシャル井戸内で必ず反応する初期条件の集合を考察した。
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