本年度は、大きく分けて二点に主眼を置き研究活動を行った。第一に、政治学・政治経済学における方法論の修得、理解を目的として文献の収集、整理を行なった。今後、論文作成、本研究を進めるうえで必要な理論・分析枠組構築のため、新制度論(合理的選択制度論、歴史的制度論、社会学的制度論)を中心に、その整理と研究を行なった。近年政治学で論争的なテーマの一つである、各制度論の架橋と実証分析への応用を主眼に置き研究を進めている。青木昌彦らが提唱する「比較制度分析」、グライフらが提唱する「分析的物語(Analytic Narratives)」、マホーニーらが提唱する「比較歴史分析(Comparative Historical Analysis)」などの概念は、マクロにおける政治経済体制とミクロにおけるアクターを接合する優れた視点、また、制度変化の説明を提供すると考える。 第二に、具体的な事例研究として、上記「比較制度分析」から得られた制度変化に関する概念「共有された予想」としての制度観を利用し、70年代後半に導入された中期割引国債の導入について、その政策形成過程を分析した。戦後確立した金融制度は、各アクター(国家アクター、市場アクター)にとって利益をもたらす仕組みとして予想され、その予想によって制度は長らく安定的であった。しかし、70年代のオイルショック、経済の低成長期への移行をもって、各アクターの予想は変化したと考える。予想の変化は制度変化をもたらし、その変化の顕在化したものが中期割引国債の導入であった。これは国債を通じて国家市場間、国家内部(大蔵省主計局・理財局・銀行局・証券局)、市場内部(都市銀行・長期信用銀行・信託銀行・証券業界)で新たな緊張が生まれたことを意味した。上記内容については、「神戸法学雑誌」第54号第3号にて「中期割引国債の政策形成過程-制度変化の政治経済学的分析」として公表した。
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