近年、論理学およびコンピューター科学においてホットな取り扱いを受けている圏論、そして圏論と密接な関係を持つ型理論、直観主義論理からどのような洞察を哲学の伝統的諸問題、例えば真理、意味、命題、判断、行為に汲んでくる事ができるのか。この問題への取り組みの第一年目が本年(平成16年度)にあたる。まず、判断について、新カント派、とりわけマールブルク学派のヘルマン・コーヘンとエルンスト・カッシーラー、そして両者に強い影響を与えたと考えられるヘーゲルといった哲学者が試みた考察と、現代の型理論、とりわけマルティン=レフの直観主義型理論における型判断の果たす役割を比較検討した。その結果、現代の型理論は前記の哲学者達が見て取っていた判断のありようを体現したといっても過言ではないものであり、彼等の考察は現代のコンピューター科学にまで通じる洞察を宿していたことがわかった。このことは日本科学哲学会大会の研究発表において公表した。さらにヘーゲルを足がかりにすることでアリストテレス以来の実体という概念を型理論を手がかりに分析するということも行った。ついで、現代分析哲学におけるダメット、マクダウェル、アンスコム、ブランダム、オースティンらの意味と言語行為を巡る考察・論争において圏論・型理論による意味の取扱いというものがどのような知見をもたらすのかを問題として取り上げた。その結果、その知見は彼等の議論の只中でかなり有力なものとなりうるであろうことがわかった。とりわけ、「意味の理論」を巡るダメットとマクダウェルの論争についてはかなり良い解決を与えることができると考えられる。
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