研究概要 |
圏論について現代的意義のある哲学的研究を行うために本年度は論理学及び計算論との関わりに注目した。categorical combinator、categorical abstract machine、λσといった直接的に圏に関わっていた諸体系は計算を自然演繹的なラムダ計算でなくて式計算のカット除去において捉えるという現代の潮流の源となっている。それは具体的には、proof net, geometry of interaction, game semantics, pointer abstract machineを始めとする諸々のabstract machine, interaction net,微分ラムダ計算等である。また、proof netについてはコヒーレンス定理という圏論特有の定理との関わりもproof net categoryによって研究されている。 本年度はそれらの中でも特にP.-L.CurienのAbstract Bohm TreeとJ.-Y.Girardのludicsを取り上げて以下の研究を行い、第一の研究の成果は3月12日に南山大学で催された哲学若手研究者フォーラム冬セッションにおいて報告した。 第一の研究。変項は従来専らタルスキ意味論における付置との関わりで考察されてきた。しかしフレーゲには空所というもう一つの変項概念がある。この概念はウィトゲンシュタインの『論理哲学論考』を最後に哲学では忘れられてしまったが、abstract Bohm Treeで扱われるラムダ項であるηlongラムダ項の変項概念に他ならない。ここから空所の概念の重要な洞察が明らかになる。また、そこでの帰納法の取り扱いの難しさから、フレーゲが値域、ウィトゲンシュタインが操作という、空所及び関数とは別の装置を考案した理由も明らかとなる。さらに、ウィトゲンシュタインによる写像の理論を、言語による証明の試みとモデルによる反証の試みの間のゲームとしてのカット除去において捉えなおすことができる。これは、空所とは異なる変項概念に基づくタルスキ意味論の言語とモデルの把握とは全く異なるものである。 第二の研究では判断という概念が中心に言語を捉える直観主義において、習得可能性という認識論的な関心が果す役割及びそこから引き起こされる混同を、カット除去から言語を捉えなおすludicsを用いて明らかにした。
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