研究概要 |
1 昆虫性フェロモンの走査トンネル顕微鏡による観察 ガ類の性フェロモン成分であるZ9-18:OH、Z11-18:OH、Z13-18:OHさらに幾何異性体であるE11-18:OHを走査トンネル顕微鏡(STM)により観察した。グラファイトまたはMoS_2基板上に吸着させたZ9-18:0H、Z11-18:OH、Z13-18:OH:、E11-18:OHの単分子層のSTM像は、規則的な周期的構造をもつことが明らかとなった。この周期構造を構成する単位構造はそれぞれのモノエンアルコール分子によく対応するものであり、幾何異性体と区別できることも示された。また各々のアルコール分子の二重結合位置に相当するbright spotの観察にも成功した。これらの結果はフェロモン分子の構造決定のためにSTM観察が有益な情報を与えることを示している。 2 コブノメイガコーリングに関わる環境要因 性フェロモンを放出するコブノメイガのコーリング行動は、サーカディアンリズムによって支配されることがわかった。コーリング行動は、光周期によって強化され、調整される。また、コーリング行動は、光によって阻害されることもわかった。 3 イネ害虫コブノメイガの交信攪乱試験 コブノメイガの交信攪乱試験を鹿児島で実施したが、コブノメイガの発生数が例年と比較して著しく少なく、有意な結果が得られなかった。理由として今年度は梅雨期が短く、従って梅雨前線に伴って発達するジェット気流が日本にかかる期間が短かったため、中国南部からジェット気流に乗って飛来するコブノメイガの数が多くなかった事が考えられる。 4 コブノメイガの性フェロモン地理的変異 インド産とフィリピン産のコブノメイガの性フェロモンは、日本産コブノメイガのブレンド(日本ブレンド)とは成分自体がまったく異なる別の性フェロモン成分(Z11-16:Ac、Z13-18:Acの2種)からなり、各々で異なるブレンド比(インドブレンド,比率1:20-6:20、フィリピンブレンド,比率98:2)である。これら3種類の合成ブレンドを用いて一部日本への飛来源に含まれるベトナム、タイで野外試験を実施している。
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