Alzheimer病の発症機構として、β-amyloid(Aβ)と膜成分糖脂質であるガングリオシドGM1の相互作用が、沈着・凝集を引き起こしている可能性が指摘されている。そこで本研究では、NMR法を用い、ガングリオシドGM1とβアミロイド(Aβ)の相互作用および凝集構造を解析することを目的とした。本年度は、凝集系タンパク質のモデルとなりうる絹フィブロインの精密構造解析と、リン脂質膜中の抗菌性ペプチドの配向挙動についてまとめ、Aβ解析のための指針を得ると共に、Aβ存在下における疑似膜の配向挙動およびダイナミクス変化に焦点をあてた。以下に成果をまとめる。 1)角度依存^<31>P NMR法を用いたリン脂質膜配向挙動の検討 実験は、当研究室で合成した高純度のAβ(1-40)を用い、DMPC/Aβ系での角度依存^<31>P固体NMR測定を行った。DMPCアシル鎖の方向と外部磁場の角度を0°(平行)、45°、90°(垂直)と設定した。約55%は、その角度に依存しない無配向成分であった。Aβ添加前後のスペクトル変化を検討することによって、膜破壊が起きていることがわかった。一方、配向成分は2種類観測された。これら2種類の配向成分は各々運動性の異なる脂質膜成分であることが示唆され、Aβの存在により脂質膜の配向性は失われず、運動性が増加する現象を捉えることができた。 2)固体重水素NMR法を用いたリン脂質膜の局所的ダイナミクスの検討 DMPCの極頭部のメチレンが重水素ラベルされたDMPC-d_4を用いた重水素NMR測定では、メチレン基に結合している4つの^2H(α-^2H、β-^2H)の四極子分裂による2組の分裂ピークが観測され、Aβが添加されると、α-^2Hに大きな線形の変化を示した。これは、Aβペプチドの存在によって脂質膜の局所的な運動性が増加したために生じた変化であり、脂質膜の配向挙動の結果とも一致する。
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