研究概要 |
高等植物の葉緑体では、モノガラクトシルジアシルグリセロール(MGDG)とジガラクトシルジアシルグリセロールがチラコイド膜脂質の約80%を占めており、光合成膜構築において極めて重要な脂質となっている。さらに近年、これらの糖脂質がリン欠乏時に多量に合成され、細胞膜やミトコンドリア膜に局在することでリン脂質の減少を補っていることが明らかとなった。このようなリン欠乏時に見られるリン脂質から糖脂質への転換は、植物がリン欠乏に対応するための適応機構の一つと考えられるが、その重要性はまだ良く分かっていなかった。そこで本研究では、リン欠乏応答性のtypeB MGDG合成酵素遺伝子の変異体解析を行うことで、リン欠乏時における膜脂質転換機構の重要性を明らかにすることを目的とした。 T-DNA挿入変異体の探索によって、typeB MGDG合成酵素遺伝子であるMGD2,MGD3のノックアウト変異体、mgd2-1およびmgd3-1の単離に成功した。また、これらの変異体の掛け合せにより、mgd2mgd3二重変異体を得た。これらの変異体における脂質解析の結果、リン欠乏時に起こる糖脂質の増加には、特に、MGD3が重要であることが分かった。根においてその重要性は顕著であり、mgd2mgd3二重変異体ではリン欠乏によるガラクト脂質の増加がほとんど見られなかった。そこで、これらの変異体で見られたリン欠乏時の糖脂質代謝異常が、植物の生長にどのような影響を及ぼすかを調べた。その結果、mgd2mgd3二重変異体では、重量の減少、根の伸長阻害、子葉での光合成活性の減少が観察された。これらの表現型はリン欠乏時にのみ見られたことから、、MTGD2/3はリン欠乏時の糖脂質の増加に特異的に寄与していると考えられる。さらにこれらの結果は、リン欠乏時に見られる膜脂質の質的転換が実際に植物の生長に重要であることを示している。
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