本研究はブラックホール候補天体のスペクトル状態遷移とジェット発生時の物理的状況を、理論モデルを観測と比較することで検証し、解明することが目的である。本年度は昨年開発したスペクトル計算コードを使い、理論スペクトルと観測とを比較する方法を提案した。それと同時に、超臨界降着円盤の新しい解析解を発見した。 1.昨年開発した一般相対論的な光線追跡法による計算コードを使って、食のあるブラックホール候補天体の光度曲線解析に応用した。その結果、光度曲線の非対称性の度合い、"歪度"を測ることで、降着円盤モデル(正確には質量降着率)を制限可能であることがわかった。この結果はPublications of Astronomical Society of Japan誌に出版されている。 2.熱的不安定性による降着円盤の状態変化における観測的特徴について、川田明寛、福江純両氏と共に共同研究を行った。実際には熱的不安定性のシミュレーションデータを用いて、光線追跡法のコードを用いて可視化と理論スペクトルの計算を行った。その結果、軌道傾斜角によつては、熱的不安定性によるバーストが起こっているにも関わらず、円盤の幾何学的な厚みが増加する効果によって、観測的に暗く見えることがあることを示した。これはブラックホール候補天体が超臨界降着状態にあるにも関わらず、観測的に発見されていないことを示唆する。この結果は、4月25日のPublications of Astronomical Society of Japan誌に出版される予定である。 3.また、放射圧優勢な降着円盤の解析解を発見した。これは以前から研究されていた、自己相似解の拡張版だが、非常に幅広い領域で数値解をうまく近似できている。この解を使えば、今まで不可能だった超臨界降着流のオーダー評価や統計的な扱いも容易になると思われる。この結果は、2006年3月に行われた日本天文学会春季年会で発表した。
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