平成16年度には、博士論文に基づき二つの研究論文を発表した。(「華麗なる<有色人種>という現実-明治期日本人エリートの洋装にみる洋行経験の光と影」伊藤守編『文化の実践・文化の研究:越境するカルチュラル・スタデイーズ』せりか書房、2004年、「黄色人種という運命の超克-近代日本エリート層の<肌色>をめぐる人種的ジレンマの系譜-」栗山茂久・北澤一利編『近代日本の身体感覚』青弓社、2004年)その後、関連テーマの一般向け文章を二本発表(「<イエロー>のはじまり」『彷書月刊』2005年1月)、(「<アジアン・ビューテイー>というパラドックス」『学習だより』日本理容美容教育センター、2005年1月)、このテーマに関しては04年末に東大で開催された日本顔学会での公開講演でも口頭発表した。 尚、16年度は3月11日から3月17日までの間、米国での人種問題との比較社会・文化史的研究と其の相関関係を明らかにする為に、ハワイ大学及び諸史料館にて19世紀後半から20世紀初頭における日系移民の人種意識を巡る歴史的展開にかかる調査を行なった。当初、本年度はアメリカ本土のハーバード大学にて移民関連の歴史調査を行う予定であったが、1922年にハワイで小沢孝雄が最高裁裁判所に起こした人種裁判問題が、近代日本の人種意識の形成を考察するにあたり極めて重要な歴史的事件であることに気づき、急遽、研究計画を変え、小沢孝雄が裁判を起こしたハワイでの歴史調査を先に行う事とした。特に日本人の人種意識の問題は「イエロー」という概念の形成過程を如何に捉えるかが重大な点となっている為、対外関係を踏まえた日系ハワイ移民の人種意識形成との相関関係を調査した。その成果は調査が完了しだい、各種の出版物において刊行するつもりである。
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