私はこれまでにNSAIDがアポトーシスを誘導する分子機構として、NSAIDが小胞体ストレス応答経路を介していることを示した。しかし、NSAIDがどのような分子機構により、小胞体ストレス応答を誘導しているのかは不明であった。これまでに、細胞内カルシウムの上昇により小胞体ストレス誘導が起きることが知られている。また、NSAIDが膜障害性を持つこと、及び細胞内カルシウム濃度を上昇させることが知られている。そこで、私はNSAIDの膜障害の結果、細胞内カルシウム濃度が上昇し、小胞体ストレス応答が起きるのではないかと考え、検討を行った。まず、NSAIDによる細胞内カルシウム濃度の変化を調べた結果、全てのNSAIDが細胞内カルシウム濃度を上昇させた。また、NSAIDの細胞内カルシウム濃度を上昇する濃度とアポトーシス誘導に必要な濃度には相関関係が見られた。さらに解析を行った結果、細胞内カルシウム濃度の上昇に比例し、小胞体ストレス応答経路が活性化され、アポトーシス誘導因子であるCHOPの発現誘導が観察された。一方、calpain(同じくカルシウム濃度の上昇により活性化され、アポトーシス誘導に関与していることが知られている蛋白質)calpainの活性化も観察された。細胞内カルシウム・キレータ-であるBAPTA-AMを細胞に予め処理しておくと、NSAIDによるCHOPの誘導、及びcalpainの活性化が抑制された。これらの結果より、NSAIDにより、細胞内カルシウム濃度の上昇が起き、それにともない様々なアポトーシス誘導経路の活性化が起きることが示された。
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