DNAの複製系において、岡崎フラグメントのRNAプライマーは最終的に副産物として鋳型鎖から引き剥がされ、FEN1によって構造特異的に切断除去される。また、FEN1の酵素活性は、DNAスライディングクランプであるPCNAと相互作用することによって、大幅に促進される。本研究では、既にヒト由来FEN1とPCNAとの複合体の結晶構造を決定したが、この構造には基質となるDNAが含まれていないため、FEN1によるDNAの認識機構や触媒機構を解明するまでには至らなかった。本研究では、これらの機構を解明することを目的として、本年度は、基質となるDNAを含めたFEN1-DNA複合体およびFEN1-PCNA-DNA複合体の結晶化条件の検索に努めた。 一般的な経験則として、DNA-タンパク質複合体は、特定の塩基配列のDNAを用いて、PEGを沈殿剤としたときに結晶化に成功することが多い。本研究では、DNAとの複合体結晶を作製するために、新たに下記の3つの試料を準備して結晶化条件を検索した。第1に、触媒活性を失活する活性中心変異体や無駄な領域を省いた9種類のFEN1のコンストラクトを作製した。第2に、既に決定したFEN1-PCNA複合体の結晶構造を基にして、DNAを含めた立体構造モデルを作成した。そのモデルから、結晶化に適用できるDNAの長さを予測し、その予想に基づいて16種類の結晶化用のDNAを調整した。第3に、市販されている結晶化スクリーニングキットから、PEGを沈殿剤とする条件のみを抜粋して結晶化条件の検索に用いた。 新たに調整した上記のFEN1とDNAの組み合わせを変えて結晶化条件を検索した結果、特定のDNAとFEN1のコンストラクトを組み合わせたFEN1-DNA複合体を用いたときのみ、幅広い条件で結晶が得られた。また、これらの結晶を用いて、放射光施設SPring-8で分解能5ÅのX線回折データの収集することに成功した。今後、FEN1-DNA複合体の最適な結晶化条件を検索して、高分解能のX線回折データを収集して、既に決定したヒトFEN1の立体構造をモデル分子とした分子置換法によって、複合体の結晶構造を決定する予定である。
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