アオブダイ中毒等のパリトキシン(PTX)様物質による食中毒の早期診断や再発防止、生物界におけるその分布の解明の一助として、本年度は以下の点について検討した。 まず、2004年10月に長崎県新上五島町で、2003年10月に宮崎県延岡市でアオブダイ中毒に酷似したハコフグ科魚類による食中毒が発生し、現地での疫学調査を行った。いずれの中毒も、共通して潜伏時間や発症から回復に要する時間が長く、主症状にアオブダイ中毒の典型的な症状である急激な血清クレアチンホスホキナーゼ値の上昇を伴う横紋筋融解症やミオグロビン尿症がみられ、原因物質はPTX様物質である可能性が示された。 次いで、2004年11月に新上五島町に隣接する有川湾で採捕したハコフグOstracion cubicus8検体、2003年10月と2004年5月に延岡市沿岸で採捕されたハコフグ11検体およびウミスズメLactoria diaphana4検体について、毒性および毒の性状を調べた。長崎県産ハコフグの筋肉1個体、肝臓3個体および消化管5個体から得た粗抽出液からマウスに対して遅延性致死活性を示す毒が検出された。また、筋肉1個体に比較的致死時間の短いマウス毒性がみられた。さらに、有毒試料は濃度0.1g試料相当量/mlでマウスまたはヒト赤血球に対し、インキュベーション4時間において遅延性の溶血を引き起こし、前者に対する溶血率は後者のそれよりも高い値を示していた。他方、2004年5月に採捕した宮崎県ハコフグの筋肉1個体および同ウミスズメの消化管3個体からマウス毒性が検出され、前記と同様の溶血活性を示した。これらの緒性状はPTXとよく類似しており、有毒なハコフグおよびウミスズメが本物質またはその類縁体を保有していることが示唆された。従って、これまで報告例のほとんどないハコフグの毒性に新たな知見が見出された。
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