パリトキシン(PTX)またはその類縁体による食中毒の早期診断や再発防止、生物界におけるその分布の解明の一助として、本年度は以下の点について検討した。 まず、昨年度に引き続き西日本を中心にPTX様物質を産生するOstreopsis属の分布調査を行ったところ、徳島県牟岐町沿岸および長崎県福江島沿岸に加え、新たに高知県室戸岬沿岸と千葉県館山市沿岸に本属が分布していることが示された。特に、室戸岬沿岸では年間を通じてほぼ定期的にOstreopsis属の分布が認められ、2005年8月には海藻1gあたりに最大212cellsの付着が観察された。一方、2004年5月に宮崎県延岡市沿岸より、2006年6月に福江島沿岸より単離した本属の大量培養に成功し、いずれの培養株についてもPTXと同様の毒産生能が確認された。他方、国産アオブダイ3検体、ハコフグ5検体、ウミスズメ5検体、ソウシハギ3検体、およびフィリピン産魚類23検体につき毒性スクリーニングを行ったところ、フィリピン産食用魚類の干物8検体(試料濃度0.5〜2.0g試料相当量/ml)からマウスに対する水溶性の遅延性致死活性が検出された。また、有毒な試料濃度(0.1g試料相当量/ml)はマウスおよびヒト赤血球に対する遅延性溶血活性を示したが、PTXやPTX様物質とは若干の相違も認められた。一方、それら有毒試料の脂溶性画分からシガトキシンと示唆される毒性(0.025〜0.05MU/g)も検出された。従って、フィリピン産魚類(干物)は脂溶性のシガトキシンおよびPTXまたはPTX様物質を含め水溶性の毒性因子が複数存在していることが推察された。 以上、わが国におけるOstreopsis属の分布海域を新たに発見し、本属から毒を大量に確保するとともに、これまで不明な点の多かったフィリピン産魚類の毒性に新たな知見が見出された。
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