被子植物胞子体の茎頂では、細胞分化を促進する遺伝子と未分化な状態を維持する遺伝子が異なる領域で機能し、未分化な分裂組織を維持しつつ、器官が分化していると推定される。未分化な状態の維持に関わる遺伝子としてKNOX遺伝子が、葉原基でKNOX遺伝子の発現を抑制し、器官分化を促進している遺伝子としてPhan遺伝子が知られている。コケ植物の胞子体は葉などの側生器官を持たず、先端に1個の胞子嚢を分化し、その発生を完了するが、コケ植物KNOX遺伝子を単離し発現様式を調べたところ、始め胞子体全体で発現するが、短期間で発現が消失し、その後、胞子嚢が分化することがわかった。申請者は維管束植物の進化の過程においてKNOX遺伝子の発現制御機構が変化し、頂端の一部で発現が維持されるような変化が生じたために胞子体世代が延長したのではないかという仮説をたてた。仮説検証の第1歩として、被子植物でKNOX遺伝子の発現を抑制するPhan遺伝子をヒメツリガネゴケで探索し、機能解析を行うことで、陸上植物の進化の初期においてKNOX遺伝子とPhan遺伝子の相互関係が存在していたか調べることにした。 ヒメツリガネゴケでは4つのKNOX遺伝子が単離されている。そのうち3つはクラス1に属し、被子植物茎頂分裂組織で機能する遺伝子の相同遺伝子であり、残りはクラス2に属する。3つのクラス1遺伝子の三重遺伝子破壊株を作出し、胞子体の発生過程を観察したところ、胞子嚢の一部と朔柄の形態に異常が見られ、形成される胞子数が著しく減少することがわかった。KNOXクラス2遺伝子についても、破壊株及び内生プロモーターによってKNOXクラス2遺伝子とGUSの融合タンパクを発現する形質転換体を作出した。 また、既知のPhan遺伝子間で相同性の高い領域にディジェネレイトプライマーを作成し、RT-PCRとゲノムDNAを鋳型としたPCRにより、5個のPhan遺伝子と同じ遺伝子族に属する遺伝子の配列の一部を得た。
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