地層内での長期的な放射性元素の移行挙動を観察できるという観点から、大規模なウラン鉱床を対象としたナチュラルアナログ研究は、放射性廃棄物の地層処分に関する有益な情報を提供すると考えられている。ナチュラルアナログ研究のサイトであるガボン共和国のオクロ鉱床の形成年代は、21億年と報告されているが、精度が低いために放射性元素を含む元素の移行挙動の議論を行う上でしばしば問題となっていた。本研究では、オクロ鉱床の上位層である火山堆積物から採取したジルコン(Zr_2SiO_4)のU-Pb年代測定により、ウラン鉱床を含む堆積層が20億8300万年前までに形成されたことが明らかになった。過去の地質学・鉱物学的研究から、この年代はウラン鉱床の形成年代の上限値であることが指摘される。また同鉱床は還元的な環境で堆積した礫岩をウランの供給源とし、酸化的な雰囲気で礫岩からウランが溶出し、鉱床が形成されたと報告されていることから、本研究から得られた年代は初期地球における大気酸素分圧の上昇時期に年代学的な制約をかけると考えられる。本試料中のジルコンの多くはPbを損失しており、U-Pb同位体分析はPb損失の時期が5億年前であることを明らかにした。この時期にウラン鉱床中においてもウラン鉱物からもPbの損失が起きており、オクロ地域広域にわたって変質作用が生じたと考えられる。変質作用によりジルコンからPbが失われると同時に、CaやMn、希土類元素がジルコン中に取り込まれていることが明らかになった。特にEuに関しては、一般的なジルコンは負のEu異常を示すのに対し、本試料中の一部のジルコンは正のEu異常を示す。これは本来ジルコンの結晶構造には不適合な2価のEuが、イオン半径の類似しているCaと共に優先的にジルコン中に取り込まれていることを示している。
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