本年度は内分泌撹乱化学物質の中でもエストロジェン様化学物質として知られるビスフェノールAおよびノニルフェノールの周産期暴露が後の行動発達に与える影響を検討し、以下の結果を得た。ビスフェノールA暴露は自発運動量やオープンフィールドテスト等の一般行動には影響を与えなかったが、電気刺激を回避させる学習能力試験においては有意に学習能力低下が認められた。またモノアミン負荷試験という脳内モノアミン系を撹乱させる試験を行った結果、ビスフェノールA暴露はモノアミン系の撹乱に対する反応性が低下していた。このことは脳内モノアミン系発達異常を示唆した。ノニルフェノール暴露は一般行動および学習能力試験における成績に影響を与えなかったが、モノアミン負荷試験において反応性の充進が検出された。以上のことは周産期に弱いエストロジェン様化学物質を比較的低濃度で暴露した場合、モノアミン系発達障害が生じていることが示唆され、また2つの物質で作用機序は異なる、即ちエストロジェン様作用以外のメカニズムの存在を示唆した。この結果は環境毒性学の一流紙であるEnvironmental Health Perspectives誌に公表した。またこれらの物質の吸収、分布、代謝、排泄におけるげっ歯類ラットと霊長類サルの間にある種差を検討し、Experimental Animals誌に公表した。 またカニクイザルにおける試験についても周産期ビスフェノールA暴露サルの行動試験結果が集まりつつあり現在解析を行っているところである。さらに甲状腺機能低下サルの作成を検討し、試験を開始した。同時に母体血中PCB濃度と次世代サルの行動発達の間にあるかもしれない因果関係を検討し結果の一部をOrganohalogen Compounds誌に公表した。
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