昨年度、げっ歯類においてモノアミン系発達障害を明らかにしたビスフェノールA(BPA、内分泌撹乱化学物質として疑われる物質の一つ)を妊娠カニクイザルに皮下ポンプを用いて10μg/kg/dayの濃度で投与し、次世代個体に対して母子行動(育児行動)、出会わせ試験(同世代個体に対する意識)、アイコンタクトテスト(ヒトに対する意識)および指迷路試験(記憶学習能力)を評価した結果、母子行動についてBPAオス新生仔の行動の複数項目がメスと同様になるという「オスのメス化」が観察された。現在出会わせ試験の結果を解析中である。またアイコンタクトテスト、指迷路試験においても同様に「オスのメス化」傾向がみられた。来年度にこれらの結果をまとめて投稿する予定である。環境化学物質のヒトへの影響を評価するにあたって、よりヒトに近縁であるカニクイザルを用いることは重要であるが、BPAのカニクイザルへの投与は世界初の試みでありその結果「オスのメス化」という現象を検出したことは毒性学領域において非常にインパクトのある結果である。 甲状腺ホルモン撹乱による神経系発達障害の臨界期を検討するために、胎生期のみ甲状腺ホルモン欠乏にしたラットと胎生期・授乳期にわたり甲状腺ホルモン欠乏にしたラットを作成し、各種行動試験により行動を比較・評価した。その結果、周産期にわたり甲状腺ホルモンを欠乏させた個体は多動を示したのに対し、胎生期のみ欠乏させたラットは逆の不動傾向を示した。このことは甲状腺ホルモン欠乏により多動障害が発生するための臨界期は出生後であり、出生前つまり胎生期の甲状腺ホルモン欠乏はむしろ逆の表現型を誘発するという障害の時期特異性の存在を示唆する。
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