日本近代文学会秋季大会で中河與一「ゴルフ」を取り上げ、古典性と近代性が混交する小説言語について発表した。具体的には、ギリシャ神話や日本の古典を前面に押し出す小説の表現に、1920〜30年代のガラス建築の概念が反映していることを報告した(ガラス建築はドイツの著述家パウル・シェーアバルトが提唱したものである)。それに加えて、この小説とナショナリスト保田與重郎との関連を探り、国際性と国粋性とが雑居する1930年代の状況についても報告を行った。この内容は、2005年5月に発行される学会誌『日本近代文学』(第72集)に掲載されることが決定している。 また、『コレクション・モダン都市文化 第5巻 モダン都市景観』(ゆまに書房、2004年)の編集を担当し、同書に収録された論文・解題・関連年譜・参考文献一覧を執筆した(619〜668頁)。同書収録の拙稿「モダン都市景観」では、日本の様々な分野の文化人が集まり、1930年代の都市景観について取り組もうとしたcollaborativeな活動や、その活動の現代的な意義について論及した。加えて、上記の活動を、1930年代に発生した「グラフモンタージュ」という写真技巧と関連付け、同時代の状況を論じた。 同志社大学の紀要に発表した拙稿「大連の詩人たち」では、1920年代の植民地、大連で日本のアヴァンギャルドが実践した詩の方法を論じた。そこでは短詩運動という名の下に、日本の俳句をフランスのハイカイ運動と連動させ、世界的な視野で詩の実験が行われていた。その他にも彼らは「詩の展覧会」などの前衛的な活動を行っていた。この拙稿は、2005年度以降に予定している、海外のハイカイ運動と日本のモダニズム詩人との関係を探る前段階の基礎的研究である。 またこの他に、戦前のナショナリズム研究の一環として、批評家本多秋五について拙稿を発表した。
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